映画 『世界にひとつの彼女』を自分なりに読み取る ②

                                                                                      

映画 "世界にひとつの彼女"から考える 現代式 人間関係のあり方

 

手紙を書かない時代 ~人が手書きの手紙に魅せられる理由~

 

映画の導入部分はセオドアにカメラの焦点が当てられ、彼がコンピューターに話しかけているシーンから始まる。

 

やがて、コンピューターに話しかけているのは彼だけではなく、そこはオフィスであることが分かる。

 

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セオドアは代筆ライターの仕事をしていて、その主な仕事内容は依頼者の恋人や友達、家族に手紙を書くこと。

 

綺麗な言葉を並べ詩を書くように、言葉を口にすると音声入力で自動的にコンピューターに手紙の内容が打ち込まれる仕組みになっている。

 

電報とほとんど同じような仕組みではあるが、

大きく違うのは、その手紙が手書き風に入力されることだ。

 

“世界にひとつの彼女” の世界で、人々は手紙を書かない。

 

ほとんどの作業が機械化された世界だからこそ、

逆に人は、<人の手で作られたもの>を欲しがるのではないだろうか。

 

<人の手で作られたもの>や<古き良きもの>をこの映画から読み取るには、

まずデザインに注目して欲しい。

 

セオドアの象徴的なファッションである赤いシャツにベージュのハイウエストパンツから彼のオフィスに置いてある小物、家の家具や人工知能型OS サマンサのデザインまで、

 

映画で使用されているデザインは、ほとんどが1930年代に流行したデザインを元にしたものだ。

 

では、なぜ1930年代なのか?

 

それは、1940年代から90年代までの年代は、

時代が巡り巡って良さが再発見されたり、その年に流行したものが注目されたりするが、

1930年代にフォーカスを当てる人は少ないからだという。

 

セオドア自身の名前も、アメリカ合衆国第25代・第26代目の大統領セオドア・ルーズベルトから由来している。

 

近未来と1930年代を元にしたデザインは、一見合わないように見えて

この映画では素晴らしいほどに美しく混ざり合っている。

 

人は、”近未来” と聞くと空飛ぶ車やギラギラした町並みを想像する。

(後にブログを通して映画で使用される配色についても言及していきたい

 

しかし、”世界にひとつの彼女”の世界は近未来をそうは描いていない。

 

無駄を省き、全てが簡素になった近未来を描いている。

物事が便利になれば、むしろ人は全てを省いて行く。製作者たちは近未来をよりリアルに、人の目線で捉えたのだ。

 

人が手紙に魅せられる理由もそのひとつだ。

 

映画の中だけの話ではなく、私たちは今でも誕生日や卒業式、結婚式など

節目となる特別な日には手紙を書いて相手に贈る。

 

なぜ手紙を書くのかと自分に問いかけると、やはり携帯のメッセージでは、あまりに簡単すぎるからだ。

 

手紙では、「絵文字をつけないとそっけなく見えるかな」と思う必要もない。

 

送信ボタンを押すだけではなく、自分の伝えたいことを紙に書く前にじっくりと考え、紙に想いを落とし込む。

 

手紙の生む暖かさは、とても美しいのである。

 

映画からセオドアは、長くからの顧客がいるようにも見える。彼は会ったこともない相手の恋愛や成長を見守り、手紙を書いているのだ。

 

“世界にひとつの彼女”では、なぜ自ら手紙を書かずに代筆ライターに手紙を書かせるのだろう。

 

次の記事では、この理由を探して行きたいと思う。

1. 現代式 人間関係 に続く。

映画 『世界にひとつの彼女』を自分なりに読み取る ①

                                                                                      

映画 "世界にひとつの彼女"から考える 現代式 人間関係のあり方

 

⚠︎ネタバレが含まれます。

まだ映画をご覧になっていない方で、内容/結末を知りたくない方はご注意ください。

 

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2013年に公開された映画 ”世界にひとつの彼女” (英題:Her)。

 

ストーリーはもちろん、映画内で使用される音楽、映像美の面でも高い評価を受けた作品。

 

主人公を演じるのはホアキン・フェニックス

ジョーカー(2019)とは正反対の、優しく繊細で、複雑な主人公の姿を完璧に演じきっている。

 

人工知能型OSを演じたスカーレット・ヨハンソンは、声のみの出演で助演女優賞にノミネートされたほどである。

 

奇才スパイク・ジョンズ監督が指揮を取り、

カメラは”ダンケルク(2017)”の撮影でもお馴染みのホイテ・ヴァン・ホイテマが担当した。

 

映画の舞台は近未来のロサンゼルス。

 

主人公セオドア・トゥオンブリーは、学生時代から共に過ごしている妻と1年前から別居中。

彼女との離婚届になかなかサインが出来ず、また、次の恋に進むこともできないでいる。

そんな中、明るい性格で、世界を見ることに希望を抱いた人口知能型OS サマンサに出会い、恋に落ちるのだ。

 

しかし、この映画を単に ”ラブストーリー” と定義するのは少し難しい。

 

― 愛とは何か。

 

私たちが生きていく上で、<最も大切にしなければいけない物>は一体何なのかを教えてくれるからである。

 

また”世界にひとつの彼女” を通してスパイク・ジョンズ監督が伝えようとしているメッセージは、

彼の作品 ”かいじゅうたちのいるところ (2009)” や 短編映画の “I’M HERE”でのメッセージ性と類似する点がある。

 

”世界にひとつの彼女”に関連した記事の更新はゆるーく、そして不定期になるが、

 

このブログでは、2年前に私が作成した卒業論文 "Colour Symbolism in the film, Her" を含む数々の資料を通して独自の見解でこの映画を読み、私なりの “世界にひとつの彼女 分析” を行っていく。